秘密結社セフィロトの木蔭☆グラマス日記帳

小説や日々のあれこれを書いていこうと思います。

マグヌム☆オプス −狭間の記憶− 序節「荒野」

空は青く、硬く乾いた広大で平らな荒野……
 
点在するわずかばかりの枯れ草が砂塵を散らす微かな風に揺れ、地表と同じ有り様の小さな丘が台地型に隆起しているのがあちこちにいくつか見てとれる。遥か遠くにはそれよりは明らかに高いであろう白茶けた山の稜線が地平の広範に伸びている。
 
そんなひび割れた世界をゆらゆらと彼方にまで伸びる、幅広の大きな道の真ん中で、その者の意識は霞が凝固するかのようにゆっくりと顕在化していった。
 
……歩いている。
 
道といっても一定間隔の範囲で幾重にも重なった何らかの人工車両の軌跡をその大地に刻んでいるだけで、同じ荒れ果てた地表の延長にある凹みや掠れの集合が、ただの一本の大きな筋を描いているに過ぎない。
 
彼はその砂利ついた硬い土の大筋の上を、気がつくといつの間にか歩いていた。
 
大地を撫でる風とザクザクと踏み鳴らされる足音……あたりに響くのはそれだけだった。
彼にはそこに至るまでの記憶は無かったが、さして抱く疑問もなく、その道を気だるい足取りで一歩一歩 歩いていた。
あたりにはこの大地を干上がらせている原因であろう水分を含まない日差しが地表のすべてに注がれていた。
だが奇妙なことにその源であるはずの太陽は、空のどこにも見たらない。
 
彼はそんな太陽の有無など気にもかけず歩みを進めている。
視線を足元にやると、穿いているズボンが白く煤けていた。
彼は立ち止まり、それを手の甲で払い落とすと、石灰と思われる粉末が散る。
払った手の甲を翻し何気に手の平を見るとそこも砂粒と石灰にまみれていた。もう一方の手の平も同じ様子だった。
彼は両手についた砂塵を叩いて払い落としながらあたりを見回した。
 
刺すような日差しにあふれた青い空と二分する白茶けた大地。
この世界はどこまで広がってるのか? と彼が思った矢先、突っ立っている道の遥か先の地平の空間が、うっすら仄暗く煙っているように見え、空の青さをわずかに濁していた。正確には道行く先の彼方とその左方の一帯が広範囲にそのように見えた。
 
(……最初からあんなんだったか?)
 
奇妙に不釣り合いな景色だった。
よく見るとその一帯は霞のように揺らめき、そのせいかこの世界で唯一湿り気を帯びているかのようで、空の青さがやや藍色にぼんやりと染まっているように見えた。
 
彼は訝しげに首を傾けながらも、さして深く考えることもなく、再び、道沿いを気だるそうな足取りで歩き始めた。
 
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